研究内容

メゾスコピック系とは

近年、極小の電子回路を舞台として、量子力学的な効果を人間の手で制御しようという、人工量子系の研究が活発に行われています。このような人工量子系は、”メゾスコピック系”と呼ばれることもあります。メゾスコピック系(mesoscopic系)とは、バルク物質のように巨視的なサイズの物質でもなければ、逆に原子レベルのように小さなスケールでもなく、その中間(meso-)の大きさの系という意味です。近年のナノテクノロジーの発展によって、このような系で普遍的に発現する量子現象を扱う研究が盛んになってきました。

*右図は、人工量子系の代表例である電子波干渉計で観測された電子干渉パターン [Fig.1 in Nakamura et al., Phys. Rev. Lett. 104, 080602 (2010)]。

量子多体状態の制御

人工量子系の多くは、半導体や金属薄膜を微細加工して作られる数nm~数ミクロン程度の小さいサイズのものです。しかし、それらはいくつかの外部パラメータによって制御できるようにデザインされています。このような系を用いる研究の醍醐味は、電子の電荷・スピン・コヒーレンス・電子間相互作用など、人間の手で量子力学的な効果を様々に制御できる点にあります。また、実験結果と理論との精密な比較が可能であることも、この分野の大きな特色です。

定量的な研究を行うことによって、量子効果を利用した超高感度測定が可能となりますし、逆に、精密測定によって、これまでに想像すらできなかったような新現象が発見される可能性もあります。

*左図は、微細加工の例。

量子センサと単一量子スピン顕微鏡

量子力学の原理を用いた精密計測技術を量子センシング(量子計測)と呼びます。量子力学を用いることによって、それ以前には到底不可能であったような超精密な測定が可能になると期待されています。

有望視されている量子センサの一つとして、ダイヤモンドのNVセンタがあります。これは、ダイヤモンド結晶の中に安定して存在する「格子欠陥」の一種です。図に示すように、となり同士の2個の炭素原子が、窒素 (Nitrogen) と原子空孔 (Vacancy) のペアに置き換わった構造をしており、内部に独特の量子準位を持ちます。

近年の研究により、NVセンタ内の電子や原子核スピンの量子状態が極めて長く保持されることが分かってきました。その高い潜在能力を使えば、新しい測定技術を開発することができます。実際、NVセンタ内の量子準位の精密測定によって、NVセンタが感じている磁場や温度を超高精度で測定することが可能なのです。この点でNVセンタを原子サイズの単一量子スピンセンサと呼ぶことができます。このアイデアは2008年に発表されました。

私たちは、この特徴を使って物質の磁気的な性質や熱輸送を、あたかも顕微鏡で観察するかのように、観測したいと考えています。これが私たちが現在取り組んでいる単一量子スピン顕微鏡の研究です。

NVセンタを用いて物質の性質を探求していくことは、世界的にも始まったばかりの試みであり、大きな発展が期待されます。この先には、量子液晶・非平衡輸送・スピングラス・トポロジカル端状態・永久電流など、物理学にとって重要で、魅力的な数多くのテーマが横たわっています。

進学を希望する学生の皆さんへ

教科書をほんの一歩踏み出すと、世の中は驚きと発見に満ちています。
 ・物理の基本原理に興味のある方
 ・電子一個あるいはスピン一個を操作したい方
 ・新しい測定技術を開発したい方
 ・現実の物質を相手に超精密な実験をしたい方
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 ・物理を楽しく議論するのが好きな方
一緒に研究しませんか。意欲に満ちた方々の積極的な挑戦に期待します。
ともに考え、議論し、実験を工夫することによって、一緒に新しい物理を切り拓いていきましょう。

主要な成果や現在進行中の主なテーマは以下のとおりです。