【レビュー論文】ショット雑音:一粒子系から量子液体へ

投稿者: | 2021年9月27日

メゾスコピック系におけるショット雑音について、橋坂昌幸氏(NTT物性科学基礎研究所)と共同で執筆したレビュー論文「メゾスコピック系におけるショット雑音:一粒子系から量子液体へ(“Shot Noise in Mesoscopic Systems: From Single Particles to Quantum Liquids”)」が、INVITED REVIEW PAPERSとしてJournal of the Physical Society of Japan で出版されました(論文:オープンアクセスです)。

本論文は JPS Hot Topics に選出されました。JPSJ編集部による紹介動画(↓ 2分程度)もあわせて御覧ください。


半導体や金属を微細加工することで、量子力学的な効果(例:電子の波動性やパウリの排他原理など)が本質的であるような小さな電子回路を作ることができます。そのサイズは典型的には1ミクロンほど(髪の毛の太さの約100分の1くらい)です。このような電子回路を「メゾスコピック系」と呼びます。メゾスコピック系を研究する最大の面白さは、電荷やスピンの生み出す多彩な量子現象を実現し、制御できる点にあります。現在盛んに研究が行われている量子コンピュータも、その多くはメゾスコピック系の研究から生まれてきたものです。

メゾスコピック系の実験の多くは、電気伝導度測定によって行われてきました。一方で、1990年代初頭より、電流の時間的なゆらぎ「ショット雑音」にも興味が持たれてきました。電気伝導度と組み合わせることによって、電子の微視的な散乱過程に関する情報が得られるためです。

代表例として1997年に報告されたショット雑音による分数電荷の検出実験があります(この実験は1998年の分数量子ホール効果に関するノーベル物理学賞の契機となりました)。2000年代初頭には、理論家によってメゾスコピック系におけるショット雑音に関する総説が複数発表されました。このようにショット雑音に多くの関心が寄せられていた一方で、雑音測定の技術的な難易度が高いため、1990年代は理論が実験に先行していました。しかし、2000年代以降、実験技術の進歩によって数多くの実験が報告されるようになりました。

本論文は、2000年代以降のショット雑音研究を実験家の視点でまとめた総説です。最初にランダウア描像によるショット雑音の教科書的な導出を行います。さらに雑音測定技術について解説します。次に、量子ポイントコンタクトや量子ホール効果エッジ状態などにおける代表的なショット雑音実験について紹介します。これらは一粒子モデルで理解される現象です。しかし、ショット雑音測定の醍醐味は、量子多体効果によって形成された量子液体においても定量的な情報を得られる点にあります(右図)。論文の後半では、その例として、近藤効果・分数量子ホール効果・超伝導におけるショット雑音についての議論を行います。また、ランダウア描像とは異なる雑音の取り扱いとして、ゆらぎの定理と関連する実験についての紹介も行います。最後に今後の展望を議論しています。

皆様、どうぞ御覧ください。

shot noise and quantum liquid
量子液体に衝突する電子の様子。電流ゆらぎ(ショット雑音)を検出することで、量子液体の性質、特に非平衡における振る舞いを定量的に調べることができる。