論文出版:量子スピン顕微鏡による磁場イメージング

投稿者: | 2021年7月1日

ダイヤモンドNVセンタを用いた量子スピン顕微鏡によって磁場イメージングを行った研究をAppl. Phys. Lett.誌に発表しました(論文)。


磁場を計測する手法には様々なものが知られています。その中で、ダイヤモンド量子センサは最近10年ほどで発展してきた新技術です。ダイヤモンド中の格子欠陥である窒素-空孔中心(NVセンタ)には、離散準位が存在しています。磁場によりゼーマン分裂した準位の磁気共鳴を光学的に検出することで、磁場測定が可能です。ゼーマン分裂による準位変動は磁気回転比にして28 MHz/mTであり、これと比べてマイクロ波周波数を十分高精度に決定できるため、高精度の磁場測定を行うことができるのです。私たちはこのことを利用して量子スピン顕微鏡の開発を行っています。

通常、NVセンタは、ダイヤモンドの結晶構造を反映して4方向にランダムに配向しています。しかし、今回、私たちはNVセンタがダイヤモンドの[111]方向に完全に配向した「完全配向NVアンサンブル」を用いました。NVセンタが一方向にそろっているにも関わらず、三次元ベクトル計測が可能であることを実証したことが本研究のポイントです。

私たちは2種類の参照磁場を利用して、近くの導線を流れる電流から発生するエルステッド磁場の3次元ベクトル計測を行いました。図に測定例を示します。(a)が測定系の概念図、(b)が試料近傍の様子です。導線の直下に完全配向NVアンサンブルが置かれています。(c)は磁場によってスペクトル(NVセンタからの蛍光強度:光検出磁気共鳴と呼ばれる手法です)が変化している例です。(d)が測定された磁場イメージです。150 µm × 100 µmの領域におけるエルステッド磁場を測定し、0.1 mT刻みで等高線プロットをしたものです。

本研究により、空間分解能1 µm以下(光学分解能)、磁場分解能1 µT程度(地磁気の数十分の1)で磁場イメージングができることが分かりました。さらに、私たちは、NV軸に垂直な方向の磁場感度を評価する式を考案し、期待される感度が、通常のランダム配向NVアンサンブルよりも高くなることを示しました。本成果は「完全配向NVアンサンブル」が量子センサとして優れていることを示しています。

本成果は、東京工業大学 電気電子系 波多野・岩﨑研究室との共同研究によります。