論文出版:量子センサにおけるフロケエンジニアリング

投稿者: | 2022年12月8日

 ダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心を用いて、大強度で周期的に駆動された二準位系の振る舞いをフロケ理論と精密に比較した成果をPhysical Review Applied誌に発表しました(論文)。


 外場によって周期的に駆動された量子系は、新しい非平衡量子現象の舞台として注目を集めています。その代表例がフロケ(Floquet)理論によって記述される時間結晶などのフロケ状態です。

 一方で、現実の系では熱化・ヒーティング・デコヒーレンスなどのため、理想的な状況を検証できるパラメータ領域には制限があります。そのため、二準位系(量子ビット)が強い駆動に対してどの程度まで理論通りに振る舞えるのか、何がそれを阻害するのかなど、完全には理解されていない未解決の問題があります。

 今回、私たちは量子センサであるダイヤモンド窒素空孔(NV)中心を用いてフロケ状態を作りだし、強い外場で周期駆動させたときの振る舞いを実験的に研究しました。具体的には、単一のNV中心(理想的な二準位系の一つです)を大きな磁場とCarr-Purcellシーケンスによって周期的に駆動しました。同期読み出し法によってその振る舞いを精密に検出し、さらに理論との定量的な比較を行いました。

 よく知られているように二準位系の物理にはベッセル関数が頻出します。私たちの実験では、211次という非常に高い次数を持つベッセル関数で表されるダイナミクスまで観測することができました(下図左)。しかもその振る舞いが理想的な理論モデルと一致することも確認しました(下図右)。理想的な場合からの僅かなズレについても、パルス長さとエラーを考慮した数値解析によって完全に理解できることが分かりました。

 本研究は、NV中心がフロケエンジニアリングを研究する上で理想的なプラットフォームであることを示しています。また、本研究で実証した同期読み出し法は、広いダイナミックレンジで高精度に磁場を量子計測するための基盤技術となります。

 本研究は慶應義塾大学 伊藤公平先生、理工学部 早瀬潤子先生との共同研究です。

図:左が実験的結果、右が解析解。横軸は振動磁場の振幅を表し、縦軸はベッセル関数の次数を表します。磁場振幅が大きくなるとより高次のベッセル関数が現れます。その振る舞いはフロケ理論(右)と良く合致します。実験で観測されている(理論では見られない)ゆらぎのような構造は、パルス長さとエラーを考慮した数値解析によって完全に再現することが可能です。