量子ドットにおける対称性の異なる2種類の近藤効果のクロスオーバーを精密な数値計算によって調べ、Phys. Rev. B誌に論文を出版しました(論文)。
近藤効果とは、固体中の局在スピンが伝導電子のスピンと結合することによって、特異な量子状態(近藤状態)を形成する量子多体現象のことです。私たちは、カーボンナノチューブに作製した量子ドット(人工原子)における近藤効果の研究を数年来、行ってきました。
通常の近藤効果(SU(2)近藤効果)は、電子の持つスピンの自由度(上/下)の量子力学的なゆらぎによって生じます。しかし、カーボンナノチューブ中の電子は、スピンの他に、軌道の自由度(右回り/左回り)も持つので、SU(4)近藤効果が起こります。さらに、通常の近藤効果は電子が奇数個の場合しか生じませんが、SU(4)対称性を持つ場合、電子が偶数個であっても、近藤効果が起こります。このように、ナノチューブは、エキゾチックな近藤効果を研究する格好の舞台となっています。
私たちは、量子ドットに加えるゲート電圧を制御することによって、ユニタリ極限に近い理想的なSU(4)近藤状態を実現しました。この状態に磁場を加えていくと、電子が磁場を感じることによって、自由度の数が4から2へと変化し、SU(2)近藤状態に変化します。これは、近藤状態の内部構造の対称性を制御したことに相当します。
今回発表した論文では、数値くりこみ群 (Numerical Renormalization Group, NRG)を用いて、磁場によって引き起こされる対称性のクロスオーバーを精密に調べました。また、温度変化についても詳細な計算を行い、クロスオーバーの全貌を解明しました。上図は、有限温度における理論計算の結果(点線)と実験で得られた伝導度(実線)を比較したものです。理論によって実験が非常によく説明されていることがわかります。
スピンと軌道が複雑に絡み合った近藤効果の振る舞いをここまで定量的に理解できるという事実は、今後の量子多体現象の研究の発展につながる大切な知見です。
本研究は、大阪市大 寺谷義道 博士・小栗章 教授、東大物性研 阪野塁 助教、パリ南大学 Meydi Ferrier 博士との共同研究の成果です。