論文出版:スピングラスに中間相=スピン蜜状態

投稿者: | 2020年9月5日

スピングラス物質に、「スピン蜜(spin treacle)」状態と呼ぶべき中間相が存在することを明らかにし、Phys. Rev. B誌に論文を出版しました(論文)。

私たちは、スピングラス物質であるCuMnBi合金を微細加工して作製された細線を用いてスピン輸送の測定を行いました。磁気モーメントが激しくゆらいでいる高温状態では、スピンホール角(スピン流と電荷流の変換収率)は温度に依存しません。ところが、温度を下げていくと、スピンホール角はある温度T*で減少し始め、低温では完全に消失します。この消失温度は、スピングラスのスピン凍結温度Tfに相当します。Tf以下では伝導電子のスピンの方向は局在モーメントとの交換結合によってランダムになっています(スピングラス状態)。

今回、私達は、TfとT*の間に、スピングラス相でもなければ常磁性相でもない、性質の異なるスピン状態が存在することを明らかにしました。この時のスピン状態は、多数のスピンが絡まり合いながらゆっくりとゆらいでいる状況にあり、「スピン蜜(spin treacle)」状態と呼ぶことができます。さらに、私達は、伝導電子のスピン緩和時間から、スピングラス内の局所磁気モーメントのゆらぎの時間スケールを定量的に明らかにしました。

本研究は、大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻の谷口年史准教授、中国科学院大学のBo Gu准教授、ラウエ・ランジュバン研究所のTimothy Ziman教授、理研CEMSの前川禎通教授との共同研究の成果です。