六方晶窒化ホウ素(hBN)のホウ素欠陥における窒素の同位体効果について調べ、量子センサの性能向上につながる可能性を見出した成果をApplied Physics Express (APEX) 誌に発表しました(→論文)。
量子技術とは、量子効果を利用して情報処理やセンシングを行う分野です。量子センシングに用いる量子センサとしてはダイヤモンドの窒素空孔中心(NV中心)が有名ですが、近年、六方晶窒化ホウ素(hBN)のホウ素欠陥欠陥(VB)が新しい量子センサとして注目されています(例えば、論文出版:hBN量子センサの感度向上に成功、論文出版:量子センサのナノ配列を実証 を御覧ください)。
量子センサの感度を高めるには、その周囲に核スピンが少ないことが重要です。というのも量子センサの実体となる電子スピンにとっては、周囲の核スピンが擾乱の要因となるためです。そこで、私たちはhBN結晶に含まれる窒素の同位体に注目しました。窒素の同位体には14Nと15Nの2つがあり、天然の存在比は前者が99.6%、後者は0.4%です。したがって通常のhBNはほぼhB14Nで構成されています。一方で、15Nの核スピンは14Nの半分です(15NではI=1/2、14NではI=1)。そこで、hB15Nを用いることができれば、量子センサの感度が向上することが予想されます。
本研究では、15N同位体の濃度を制御し、天然存在比の場合(0.4%、ほぼ存在しないことと同じ)、増やした場合(約60%)、完全に15Nにした場合(100%)の3種類の場合のhBN量子センサについて同位体効果を調べました。光検出磁気共鳴スペクトルを図に示します。上図と下図を比べると、hB14N量子センサよりもhB15N量子センサの方が、スペクトルの構造が単純になり、鋭いことが分かります。このことは量子センサの感度向上に直結します。
このような同位体制御hBN量子センサは様々な新しい可能性をもたらします。たとえば、同位体でラベリングする手法によって単原子層物質の表裏を区別できるような高度な位置決め測定も可能になります。本研究は、窒素同位体の活用によってhBN量子センサの可能性を広がることを示した点で、量子センシングの発展につながるものです。
本成果は、物質・材料研究機構(NIMS)の谷口尚理事との共同研究によります。