論文出版:磁気トンネル接合における非線形伝導の普遍性

投稿者: | 2023年3月31日

極小の磁気トンネル接合における非線形伝導について系統的に調べた研究をPhys. Rev. B誌に発表しました(論文)。


磁気トンネル接合(MTJ)とは、2層の強磁性体が絶縁体を挟んだ構造の素子のことです。2つの強磁性体の相対的な磁化方向によって電気抵抗が大きく変化するため、磁場センサとして様々な応用が行われています。また、この現象は(単純な接合構造であるにも関わらず)電気伝導にスピン依存性が顕著に現れるという点で、学術的にも大きな注目を集めてきました。

MTJに関しては、電流と電圧の関係がオームの法則からずれるという非線形性があることが知られています。このような非線形性は磁場センサとしての応用の際に障害となるため、そのメカニズムの解明は重要なのですが、長年の未解決問題となっています。例えば、私たちはマグノンが非線形性の原因となっている可能性について実験的に議論し、論文を発表しています(お知らせ)。

今回、私たちは磁化容易軸が垂直で様々な接合サイズを持つMTJを用いて、低バイアス領域での非線形伝導について、電流-電圧特性および強磁性共鳴の測定によって調べました。電流-電圧特性は、
 I = G1V +G2V2 +G3V3+…
と表されます。G1が線形応答の成分で、より高次の項 G2, G3が非線形伝導を特徴づけます。私たちは、G2が接合サイズが小さくなるにつれて増加すること、G3G1と負の相関を持つこと(図)、その係数 δG3G1(=k)はG2と正の相関を持つこと、を見出しました。非線形伝導にこのような系統的な関係が存在することは、背後に普遍的なメカニズムがあることを示唆しています。

様々なサイズ(D)のMTJの非線形伝導に普遍的に現れるG1G3の負の相関

これらの結果は、電子が接合をトンネルする際のスピン反転や、ナノ加工プロセスによるデバイス端での材料特性の変調を考慮することで説明できました。また、強磁性共鳴測定はこのような物理的メカニズムを支持するものでした。

以上の結果は、ナノスケールのMTJにおける電気伝導のメカニズムの解明に新たなヒントを与え、その非線形性を記述するモデルの確立を促進するものです。

本研究は、大野英男先生深見俊輔先生大塚朋廣先生篠崎基矢さん をはじめとする東北大学の皆様、および スイス連邦工科大学チューリッヒ校の 岩切秀一さん 他との共同研究の成果です。