論文出版:スピン流で駆動される非線形ダイナミクス

投稿者: | 2020年7月18日

スピン流注入によって励起される磁化の非線形ダイナミクスについての研究がAppl. Phys. Lett.誌に出版されました(論文)。

磁気トンネル接合(MTJ)へスピン流を注入すると、磁化が自励発振することが知られています。このような磁化の自励発振は、典型的な非平衡非線形現象であり、様々な研究が行われています。MTJでは、励起強度や磁気異方性さらには外部共振器との相互作用など、様々なパラメータを制御することで、多彩な発振モードが実現される可能性があります。その点で、MTJは制御された状態で非線形ダイナミクスを研究できる格好の舞台と言えるでしょう。

私たちは、Ta下地層の上にCoFeB/MgO/CoFeBを基本構造とするMTJを用いて、発振現象を研究しました。この構造では、Ta層におけるスピンホール効果によって生成されたスピン流が、接合の下部CoFeB層にスピントルクを与えることによって、磁化発振を励起することができます(図)。

図:実験セットアップの概略図。MTJナノピラーは、Ta下地層の上に成長したCoFeB/MgO/CoFeBで構成される。Taにおけるスピンホール効果により、電流がMTJに流れ込むスピン流に変換され、磁化にスピントルクを与える。

私たちは、スピン流が増加するにつれて、単一発振モードが低周波側にシフトしつつ等間隔のマルチモードへと分岐することを観測しました。こうしたモード変化の機構として、マイクロマグネティクスによる数値計算から、複数の軸まわりでの歳差運動および共振器モードとの相互作用が関わっていることを実証しました。この成果は、スピントルクを用いた非線形発振素子の小型化に寄与する可能性があります。

本研究は、物質・材料研究機構(NIMS) 磁性・スピントロニクス材料研究拠点との共同研究です。