近藤状態にある量子ドットにおける非平衡輸送を調べた我々の論文がPhys. Rev. B誌にRapid Communicationとして出版されました(論文)。近藤相関に基づく対称性が有限バイアス下における非弾性遷移に影響を与えることを示した成果です。この結果は、レーゲンスブルグ大学(ドイツ)、ミネソタ大学(アメリカ)、レベデフ物理学研究所(ロシア)、パリ南大学(フランス)との共同研究によります。
量子ドットにおける近藤効果は、微分伝導度におけるゼロバイアスピークとして観測されます。これは平衡状態近傍の性質です。一方、有限バイアス下(非平衡)においても、近藤相関が輸送に影響を与える場合があります。例えば、カーボンナノチューブ量子ドットにおける近藤効果は、電子がスピンと軌道の両方の自由度を持つため、SU(2)×SU(2)の対称性を示します。この場合、近藤効果は、クラマース擬似スピンを保持するように非弾性トンネル過程を抑制します。つまり、クラマース擬似スピンが保存されるようなバイアス電圧においては、本来は伝導が生じないはずです。
ところが、私たちは、そのようなバイアス電圧においても伝導が観測されることを実験的に見出しました。この効果は、そのバイアス電圧において擬似スピンが保存しないような遷移が共鳴し強め合うことによって生じることを理論的に明らかにしました (左図) 。2つのクラマース二重項とリード線との結合が非対称であることがその原因です。
本研究は、たとえ平衡から遠く離れた状況にあったとしても、対称性を通じて近藤効果が輸送現象に姿を表すことを微視的に実証したものといえます。