論文出版:近藤温度評価の新手法

投稿者: | 2023年11月21日

磁場中におけるスピン1/2近藤状態の普遍的なスケーリングを理論的・実験的に調査し、信頼性の高い近藤温度の新しい評価手法を提案した研究をPhysical Review B誌に発表しました。御覧ください(→論文)。本研究は同誌のEditors’ Suggestionに選定されました。


近藤効果とは、固体中の局在スピンがその周りの伝導電子のスピンと結合することによって、近藤状態と呼ばれる特殊な量子状態を形成する現象のことです。スピンを介して電子の間に非常に強い相互作用が働くことが特徴です。1960年代から現在に至るまで、近藤効果は物性物理学における大切なテーマの一つであり、数多くの研究が行われてきました。※近藤効果の日本語の解説はこちらを御覧ください。

私たちは、カーボンナノチューブを用いて作製した人工原子における近藤効果の研究を行いました。人工原子に導線をつなぎ、通過する電流を測定することによって、人工原子の状態を精密に調べることができます。私たちは、人工原子に加える電圧や磁場などを制御することによって、理想的な近藤状態を実現しました。精密な電流電圧測定によって、磁場中での人工原子の電気伝導度を調べ、近藤状態の普遍的なスケーリングを実証しました。理論的に効率的で信頼性の高い近藤温度の評価手法を提案し、これにより理論と実験の定量的な比較に成功しました。

左図:横軸は近藤温度でスケールされた磁場、縦軸はゼロ磁場での伝導度でスケールされた磁場中の伝導度を示しています。実線・点線は理論式、丸印は実験値を表しています。理論・実験とも近藤効果特有のスケーリングがきれいに成り立っていることがわかります。磁場中における近藤温度を正確に評価できることを実証した結果です。

今回の成果は近藤温度を定量的に評価できる有用な新手法を与えるものであり、近藤効果の低エネルギー状態を正確に理解するために重要です。また、この手法は冷却原子など温度制御が難しい系にも適用可能です。今後の展望としては、この手法を拡張して異なる物理系(冷却原子、超伝導-スピン量子ビット相互作用系など)での近藤効果を探求していくことが期待されます。

本成果は、阪野塁(慶応大)、秦徳郎(東工大)、本山海司(大阪市大)、寺谷義道、堤和彦、小栗章(大阪市大・大阪公立大)、荒川智紀(産総研)、Meydi Ferrier、Richard Deblock(パリ=サクレー大)、江藤幹雄(慶応大)との国際共同研究によります。