ダイヤモンドNV中心におけるスピンの読み出しを最適化する手法についての成果をAIP Advances誌に出版しました(論文)。
私たちは、ダイヤモンド結晶中における窒素空孔中心(NVセンタ)を用いた物性計測の研究を行っています。このような量子センシングでは、センサの量子状態を効率的に決定する技術の開発が不可欠です。
今回、私たちはNVセンタのスピン状態を読み出すために、フォトルミネッセンス強度(図(a))の重み付けを最適化する手法について研究しました。従来は実験結果を見ながら適切なしきい値(例として 図(b) 黒線)を設定してスピン状態を決定していたのですが、光学遷移を考慮した物理モデル(5準位モデル 図(c))を採用することで、効率的な読み出しが可能となりました(図(b) 赤線)。実際、この手法を用いて、スピン状態の読み出しに関わる信号雑音比(SN比)を5.4%向上させることができました。
NVセンタ内の電子スピンの情報は、パルス操作を行うことによって、窒素原子の核スピンに保存することが可能です。これを核スピンメモリと呼びます。私たちは今回開発した手法により、核スピンメモリの読み出しも向上させることができることを実証しました。
5%程度の効率化はそれほど大きくないように見えるかもしれません。しかし、本手法は数分から数日までかかるような様々な測定に利用することができるため、トータルで見ると測定時間の大きな削減につながり、効率の良いセンシングが可能になります。
本研究は慶應義塾大学 伊藤公平先生、理工学部 早瀬潤子先生、産業技術総合研究所 渡邊幸志先生、住友電工 角谷均先生との共同研究です。