窒素空孔中心の光検出磁気共鳴(ODMR)の励起光強度依存性について詳細に調査した結果を Journal of the Physical Society of Japan 誌に発表しました(→論文)。
※筑波大学 野村 晋太郎先生が紹介記事を書いてくださいました。ぜひ御覧ください。Shintaro Nomura, “A Quest for Accurate Quantum Sensing Using Diamonds”, JPSJ News Comments 20, 14 (2023).
※本論文は Papers of Editors’ Choice(注目論文)に選定されました。
※本論文は JPS Hot Topics にも選定されました。どうぞ御覧ください(→ JPS Hot Topics)。
※2023年6月の JPSJ Top 20 Most Downloaded Articlesにランクインしました。
近年、ダイヤモンド中の窒素-空孔(NV)中心を用いた磁場や温度のセンシングが注目を集めており、物性物理計測にも応用が始まっています。一方で、NV中心ならではの探索手法を確立するには、感度だけでなく、確度も向上させていくことが重要です。NV中心の最も基本的なセンシング手法である光検出磁気共鳴(ODMR)では、ODMRスペクトルの磁気共鳴周波数を見積もることで磁場や温度の測定を行います。
最近、低磁場におけるナノダイヤモンド中のNV中心のODMRスペクトルが励起光強度によって変化し、温度測定の確度を低下させるという意外な現象が報告されました [M. Fujiwara et al., Phys. Rev. Res. 2, 043415 (2020)]。この現象は微弱な磁場測定においても確度を低下させる課題となりえます。特に、私達が注力しているCMOSカメラとNVアンサンブルを利用した磁場や温度の広視野イメージングにおいては、視野内の励起光密度の不均一さが磁場や温度のアーティファクトを引き起こす可能性があるため、重要な課題です。
私たちは、ナノダイヤモンド(ND)とバルクダイヤモンド単結晶中のNVアンサンブルを用いて、ODMRスペクトルの励起光強度依存性を調べました。共鳴周波数付近でODMRスペクトルは2つに分裂しています。磁場中ではゼーマン効果によって分裂はさらに大きくなります。このことを利用して精密な磁場測定が可能となるのです。
ところが、わたしたちは、ゼロ磁場における分裂幅Δが励起光強度に依存することを見出しました。具体的には左図に示すように、励起光強度の増加とともに、分裂幅Δが指数関数的に減衰し、あるところで飽和することを見出しました。NDとバルク試料の比較から、減衰振幅は試料に依存するのに対し、減衰が飽和する励起光強度はほとんど試料に依存しないこともわかりました。
この予期せぬ現象は、非軸対称変形や不純物によるNV中心の本質的な性質であると考えられます。また、この発見は変形の少ないダイヤモンドの方が正確な磁場測定に有利であることを示しています。同時に、ODMRスペクトルから磁場を正確に読み出すためには、励起光強度依存性をきちんと考慮する必要があること、および、ある程度以上強い励起光を入射することによって確度の劣化を抑制できることも示しています。今回の成果は、ダイヤモンド量子センサを用いた精密な磁場測定技術の基礎となります。
本研究は、NIMS 寺地徳之氏との共同研究です。
※Papers of Editors’ Choice(注目論文)に選定されました。
※本論文は JPS Hot Topics にも選定されました。どうぞ御覧ください(→ JPS Hot Topics)。
※2023年6月の JPSJ Top 20 Most Downloaded Articlesにランクインしました。
※筑波大学 野村 晋太郎先生が紹介記事を書いてくださいました。ぜひ御覧ください。Shintaro Nomura, “A Quest for Accurate Quantum Sensing Using Diamonds”, JPSJ News Comments 20, 14 (2023).