論文出版:hBN量子センサの最適化

投稿者: | 2024年11月13日

高感度なhBNナノ量子センサの開発に成功した成果をPhysical Review Applied誌に発表しました(→論文)。


私たちは、六方晶窒化ホウ素(hBN)というファン・デル・ワールス材料の中にあるホウ素空孔欠陥を用いた量子センサ(下図左)の作製方法を研究しました。この欠陥(色中心)は磁性材料の微小な磁気構造や秩序を高精度に観察する新しいプローブとして期待されています。

微細な磁場を観察するためには磁場感度だけでなく高い空間分解能が必要です。hBNは原子層レベルまで薄くできるため、測定対象表面付近の磁場を精密に検出可能です。しかも、hBNの厚さを精密に測定できるため、量子センサと測定対象の間の距離(スタンドオフ距離)を正確に見積もれるという利点があります。これは、従来手法では難しかった、ナノメートルスケールの磁気構造の定量的観察に役立ちます。

左) hBN量子センサにおける光検出磁気共鳴(ODMR)の概念図。右) hBN量子センサのナノ配列。各スポットは100nm四方の大きさですが、光学分解能のため実際のサイズよりも大きく見えています。

今回、私たちはhBN中にホウ素空孔欠陥をつくるために、ヘリウムイオン顕微鏡(HIM)でイオン照射する方法を採用しました。この手法では、ナノサイズの欠陥を正確な位置に作り出せるため、検出精度がさらに向上します。昨年、私たちは本手法の有用性を世界に先駆けて実証しました(→論文→プレスリリース詳しく)。今回はその成果をさらに発展させ、hBNの厚さや基板の種類がセンサ性能に与える影響も調べ、最適な条件を突き止めました。特に、厚さ約50ナノメートルのhBNを金基板上に配置した場合に、感度が最も高まることを見出しました。

本研究の目的は、磁場センサの空間分解能を高めることにあります。上図(右)に示すように、複数のナノサイズの量子センサをアレイ状に並べ、高性能カメラで同時に観察することで、広い範囲の磁場を一度に精密にイメージングできます。この成果を利用すれば、感度のより高いセンサをより細かい場所に集中させて配置することで、微細な磁場の変化をさらに高精度に観察できるようになります。例えば、磁性体内部におけるスピン相関関数を調べる研究にこのセンサを応用できる可能性があります。将来的には、データ解析技術を改良することで回折限界を超えるような小さなスポットの信号も個別に検出できるようになるかもしれません。

本成果は、物質・材料研究機構(NIMS)の岩崎拓哉独立研究者渡邊賢司主席研究員谷口尚理事、産業技術総合研究所の小川真一客員研究員森田行則上級主任研究員東京工科大学 中払周教授との共同研究によります。