機械学習を用いることにより温度の量子センシングの精度向上に成功した成果をAPEX誌に発表しました(→論文)。
ダイヤモンドの窒素-空孔(NV)中心は、電子スピンを利用して温度、磁場、電場、圧力などの物理量を計測できるため、物質科学や生命科学の分野で注目されている量子センサです。NV中心を含むナノダイヤモンドは、非常に小さなサイズ(直径100nm程度)であるため、局所的な温度測定が可能な量子センサとなります。例えば、NDを細胞や微生物に導入して内部の温度変化を観察したり、材料表面に散布して熱拡散を測定したりする応用が進んでいます。
ナノダイヤモンドを用いると、光励起とマイクロ波照射を組み合わせた「光学的検出磁気共鳴(ODMR)」を用いて、ゼロ磁場分裂の温度依存性から温度を測定することができます。しかし、ナノダイヤモンドは結晶の向きが多様であるため、ODMRスペクトルの解析が難しく、従来の手法では精度が不安定でした。例えば、従来用いられている4点測定法は高速ですが精度が低く、また、ODMRスペクトルをローレンツ関数でフィッティングする方法も、一貫性に欠ける問題がありました。
本研究では、4点測定法やフィッティング法に加えて機械学習の一種であるガウス過程回帰(GPR)を導入し、その解析精度を比較しました。その結果、GPRを用いた方が、少ないデータ点でも安定して信頼性の高い結果を得られることを実証しました。本研究により、ND量子温度測定の精度と信頼性が向上し、より幅広い応用が可能になることが期待されます。
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(左図)測定系の概念図。温度制御可能なステージにナノダイヤモンド量子センサをセットしODMRスペクトルを高精度に取得。(右図)従来手法である4点測定法 [下] と機械学習GPRを用いた場合 [上] の二乗平均平方根誤差のヒストグラム。GPRを用いた解析手法の方が安定して信頼性の高い結果が得られることを示す。
本研究は 知の物理学研究センター 蘆田准教授との共同研究です。